図:物件写真の無断転載問題の概念図(撮る側には盗用・使う側には著作権侵害のリスク)
物件写真は、撮影の手間とコストをかけて作り上げた事業者の資産です。ところが実務では、レインズやポータルサイトに掲載された他社の写真をコピーして自社広告に使う「使い回し」「無断転載」が後を絶ちません。これは、撮る側にとっては盗用であり、使う側にとっては重い法的リスクです。
本記事では、両方の立場から問題を整理し、流用をどう検出し、どう備えるかを解説します。
物件写真は「著作物」である
まず前提として、物件写真は多くの場合、著作権法上の「写真の著作物」にあたります。被写体の構図、カメラアングル、照明、撮影方法などに撮影者の工夫・個性が表れているからです。
この点は裁判でも確認されています。2024年の東京地裁判決では、賃貸物件の外観・内観・周辺環境を撮影した写真について著作物性を認め、これを無断でウェブサイトに掲載した行為を、複製権および公衆送信権の侵害として、損害賠償を認めました。物件写真は「ただの記録」ではなく、保護される創作物だということです。
著作権は原則として撮影者に帰属します(従業員が職務として撮影した場合は、要件を満たせば法人が著作者となることがあります)。
無断転載のリスク(使う側)
他社やポータルに掲載された写真をコピーして自社の広告に使う行為は、複製権・公衆送信権の侵害になり得ます。注意すべき点を挙げます。
- 故意でなくても侵害は成立する:「フリー素材だと思った」では免れません。
- スタッフの独断でも会社が責任を負い得る:従業員が業務でやった無断転載は、雇用する会社の責任とされる可能性が高いとされています。
- 罰則は重い:著作権侵害は、刑事で個人は最高10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金が定められています。民事では損害賠償・差止め・削除の請求を受けます。
- 「掲載元に許可をもらった」も危険:掲載元が必ずしも著作権者とは限りません。
- ポータルのペナルティ:掲載ガイドライン違反として警告ポイントが累積し、掲載停止に至ることがあります。集客を依存している事業者には死活問題です。
- おとり広告リスクも:現況と異なる写真や間取り図の使い回しは、おとり広告と評価されるおそれもあります。
図:無断転載した側が負う4つのリスク(刑事・民事・ポータル・おとり広告規制)
盗用される側の悩み
一方、自社で撮影した写真を勝手に使われる側にも悩みがあります。
- 他社サイトで使われていても気づきにくい
- 発見しても、「本当に自社の写真か」「先に使っていたのは自社か」を示すのに手間がかかる
無断転載をした側は労せず画像を手に入れる一方、撮影した側は労力と時間をかけています。この不公平を正すには、まず流用を見つけ、自社のものだと示せる状態を作ることが必要です。
流用検出の考え方
流用検出で難しいのは、まったく同じファイルとは限らない点です。リサイズ、再圧縮、トリミング、軽い加工をされた「ほぼ同じ画像」を見つける必要があります。
ここで使われるのが**知覚ハッシュ(perceptual hash)**です。画像の見た目の特徴を短い「指紋」に変換する技術で、多少加工されても近い値になるため、加工済みの流用候補も拾えます。逆画像検索とあわせて使うと、検出の精度と網羅性が上がります。
図:知覚ハッシュによる流用検出の流れ(多少の加工では指紋は大きく変わらない)
対策(撮る側のチェックリスト)
- 自社撮影を徹底し、出所不明の素材を混ぜない
- 撮影の来歴(誰が・いつ)と権利関係を社内で明確化する
- 必要に応じて、控えめなウォーターマークを入れる
- 自社写真の指紋(知覚ハッシュ)を登録し、定期的に流用をチェックする
- 流用を発見したら、まず証拠を保全し、削除要請(文化庁が公開するDMCA準拠の参考書式などを活用)を行う。対応に迷えば専門家へ
Imprintにできること・できないこと
Imprintは知覚ハッシュによる類似画像の照合に対応しています。自社の物件写真の指紋を記録しておけば、加工・再圧縮された流用も含めて「これは自社の写真に由来する可能性が高い」と検出する手がかりが得られます。
さらに、撮影時点のハッシュと時刻の記録を残しておけば、「先に存在していたのは自社の写真だ」という時系列の裏づけにもなります。ハッシュをパブリックブロックチェーンに記録する仕組みは、その記録の独立した裏取りを助けます。
ただし、Imprintは著作権の有無や侵害の成否を判定するものではありません。それは法的な判断であり、最終的な評価や権利行使は権利者・専門家が行うものです。Imprintはあくまで、流用の検出と、自社写真の存在・無加工性の記録を助ける道具という位置づけです。なお、削除要請は、権利侵害が微妙な場合に行うと逆に営業妨害等を主張されるリスクもあるため、慎重な判断が必要です。
まとめ
物件写真は保護される資産であり、安易な使い回しは重い著作権リスクを伴います。使う側は「自社で撮る」を原則にし、撮る側は「指紋を登録して流用を検出し、自社のものだと示せる状態を作る」こと。検出と記録の仕組みを整えておけば、いざというときの交渉や権利行使がぐっと進めやすくなります。
本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。著作権の成否や侵害の判断は個別の事情により異なります。判断に迷う場合は、文化庁の相談窓口や弁護士等の専門家にご相談ください。